許嫁な二人

   「唯ちゃん、また来てるわよ、あの人。」



 そう千賀子さんにいわれて、目線をあげると、鳥居の下に
 たたずむ透がいた。



   「逢ってらっしゃいよ、ここは忙しくないし。」



 そう千賀子がいい、唯がふくろにつめていたお守りを箱ごと持って
 いってしまった。

 唯はため息をついて、座布団を二つあけたむこうに座った千賀子をみる。

 しばらく見つめていたら、唯の視線を無視してお守りをつつむ手元に
 むけていた顔をあげて千賀子が口の動きだけで唯をせかした。

 ”は、や、く”と。


 仕方なく唯は社務所から出ると、透のいる鳥居へむかった。

 玉砂利をふむじょうりの音に気付いたのか、透がこちらをむき
 唯にむかって笑顔になった。



   「時間がとれたなら、歩かないか。」



 そう言って、透はさっさっと唯の前の歩きだした。

 神社の横手に広がる杉林の外れから、神社のうらの小高い丘にむかって
 細い山道が続いている。

 透はここに来るといつも唯をそこに誘うのだ。
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