許嫁な二人

   「あ、だめよ。」



 唯はそう言って、透の肩をおしたが、透はやめようとしない。

 唇が首筋に押しあてられ、透の手が、まだ裸のままの唯の腿をなでる。

 突然の透の行動に、恥ずかしさがこみあがってきて、
 大きく身をよじったら、透の手でしっかりと腰を掴まれてしまった。



   「だめよ、本当にだめ。」



 流されまいと声をはりあげたら、”ちぇっ”という声とともに
 唯の体は自由になった。

 背中をむけてベッドをおりた透が、スエットズボンをはきながら言う。



   「もう一泊してけば?」



 そんな透にため息をおとしながら、唯は首をふった。



   「だって、もうあと1週間しかないのよ。」




 1週間後、透と唯は桜下の碓氷神社で、結婚式をあげる。

 今の桜下は、桜が満開で、どこもかしこも、唯の好きな薄紅色で
 溢れかえっているはずだ。

 大好きな桜の季節に花嫁になれるのは嬉しいが、透の入社とかさなって
 大変なのも確かだ。

 唯としては、結婚などまだ、考えてもいなかったことなのに
 透は、大学を卒業したらすぐにするといって、聞かなかった。
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