許嫁な二人

   「その上、上条先輩にはえこひいきされて、、、
    1年生の指導のことをチクったのも、あんただって
    わかってるんだから。」

   「そんな、誤解です。」

   「うるさい!」



 香山先輩が怒鳴った。

 ”おーこわ”と他の人の声がした。

 きっといつも一緒にいるあの人たちだ、と唯は思った。



   「だして下さい。」

   「うん、もう少ししたらね。そこで少しは反省しなさい。」



 それっきり、香山先輩の声は聞こえなくなった。

 でも、ちょっと離れたところで、くすくす笑う声や、ぼそぼそ話す
 声は聞こえる。

 唯は途方にくれた。

 用具室の中はドアが閉められたお陰で、さらに暑く感じる。

 不快な空気がねっとりと肌にまとわりつく。

 なにかで口を塞がれているようで、息苦しい。



 堪らず、唯はそこにしゃがみこんだ。

 簡単にだまされて、こんなところに閉じ込められた自分が
 情けなくて、くやしくて、、、。



   「透くん。」



 唯はポツリと透の名を呼んだ。
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