許嫁な二人
今、この場をのがしたら、もう二度と声をかけることが
出来ないような気がして、唯は透の背中にむかって
声をあげた。
「あの、、私、、去年の秋にここへ転校してきて、、、。」
そこまでを叫ぶように言ったはいいけど、言葉が続かない。
(私、、何が、、言いたいんだろう、、)
のどの奥にひっかかったまま、言葉はなかなかでてこない。
唯はただ、じっと透の背中を見つめた。
透は、動きを止めたまま、、、そして背中を唯に向けたまま、、
「知ってる、、、っていうか、知ってた。
廊下でも何度かすれ違ったし、、、、。」
と言った。
向こうをむいたままの透から、思いもかけない返事がかえってきて
唯は慌てた。
「えっ、本当に? 私、わからなかった、、、でも、
声を掛けてくれたら良かったのに、、、。」
その言葉の返事は、なかなか返ってこなかった。
妙な間があいて、やっと透が口をひらく。
「掛けれなかった。」
呟くように、そう言葉を落として、透は振り返ることなく
唯を残して、保健室を出て行った。