許嫁な二人
「めっちゃかわいい、ふふふ、くすぐったい。」
「可愛がるのはいいけど、蔵から品物がでてきたら
子猫はゲージに入れてくれよ。」
子猫とじゃれてあそんでいる良世に諸井は神経質そうな声を
あげた。
「わかってますよーだ。」
良世と諸井が言い争っている間に、蔵の戸はあけられ
中から品物が運び出された。
鼻の穴をふくらませた諸井がすっとんでくる。
それが餌を目の前にした子猫そっくりで、唯は笑ってしまった。
念願かなって、碓氷家の蔵出しに諸井は良世とともにやってきた。
なんでも偶然出逢って、碓氷家に行くといったら、私も連れて行けと
すごまれたらしい。
本当は連れてきたくなかったんだという感じの諸井だったが、
唯は久しぶりに良世にあえて嬉しかった。
良世は唯とは別の高校に通っている。昨年、こちらに帰ってきて、
2、3度逢ったけれど、3年生になってからは、まだ一度もあって
いなかった。
人なつこい笑顔が丸い顔に浮かぶところは全然変わってなくて
相変わらずまめに唯の心配をしてくれる。
唯と良世のことはそっちのけにして、唯の父親と話しながら
品物をあらためている諸井は本当にうれしそうだ。
「一体、どこがいいんだろ、あんなに一生懸命になっちゃって。」
「ほら、中学1年生の時に約束して以来だから、諸井くんも
思い入れが深いのよ。」
「そうだった、懐かしいねぇ、かき氷食べて約束したんだった。」
そう言って、良世が遠くをみるような目つきになる。