許嫁な二人

 すぐに果たせるはずだった約束は、そのままになり5年もの
 月日が流れてしまった。


  (本当なら、透くんもここにいるはずだったのに、、、)


 5年も前のことなのに、唯はまるで昨日のことのように
 その日を思い出すことが出来た。

 かき氷を一緒に食べたこと、いつもより透と話ができたこと
 バス停まで送ってもらったこと。

 透とは、球技大会の日に、保健室で話してから、一度も
 話していない。

 話しかけたいと思ったが、透は授業以外はほとんど教室にいない。

 さっさと教室からいなくなる透を呼び止めることは
 唯には難しかった。





   「誰、あの男子?」



 良世の声に表をみると、参道を背の高い男の子が歩いてくる。

 一瞬、透かと思い、唯の心がざわついた。

 でもそれが、透ではない、中里 悠だとわかって、唯は子猫を
 だきあげると慌てて外に出た。



   「どうしたの?」



 駆け寄った唯が訊ねると、悠は持っていたビニール袋を持ち上げてみせた。



   「子猫用のキャットフード、無くなっていただろ、朝じゃなかなか
    持って来れないから。居なかったら置いていけば良いと思ったし。
    連絡いないで来てごめん。」
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