雨のようなひとだった。
 
「あーーーっクソ!ってアッチィなオイ!!」

 思い切り水面――というか湯に両の拳を打ちつけると当然ながら勢いよく湯が顔にかかった。

「アッチィ…マジで…あーーーーーー」

 手のひらに湯を掬い上げて顔にまたぶっかける。そのまま髪を撫でつけるように湯を浴びた。
 阿呆だ。阿呆だな。
 でも無理もない。

 据え膳喰わねば何とやらというのは俺のこれまでの人生を振り返れば大きく頷くところなんだ。
 それが、同じ屋根の下に気になる女と一緒に居て手を繋ぐ以上の事に未だ進展していない。
 いや、紳士だから俺は手なんて出さないけど。だってあの時出さないって言ったようなもんだから、信頼を裏切るようなことは出来ない。

 でも互いにいい年をした大人だ。
 中学生同士でもあるまいし、多少なりともそういうコトを全く期待しないっつったら嘘に決まっている。
 でも、互いにいい年をした大人だ。
 だからこそ彼女はあの微笑みと「信頼」という言葉で、遠回しに牽制をしているのだとも、思う。


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