雨のようなひとだった。
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『彼女も……呼び寄せられたひとりなんですよ』
電気も点けずにベッドへ身を投げてからずっと、マスターの声が何度も何度も頭の中で繰り返されている。
今日は彼女の上がりを待つつもりで店へ向かったのだが、今彼女の顔を真正面から見つめたら質問攻めにしてしまいそうな自分が怖くて「用事が入りました」とメールだけ入れておいた。
俺はマスターに何も話していない。
結城どころか誰にも話していない。
ただ、ご褒美だと自分に言い聞かせながら辿りついたあの店が〝呼び寄せる〟のだとしたら、やはり俺は行くべくして言ったのだろう。
大規模な新規プロジェクトの準備に酷く時間を要していたそれまでの俺は、私生活なんてなくなっていたようなものだった。
初めて自分が立ち上げるものに力が入らない奴なんていない。
肩にも気持ちにも力が入りすぎてうまく私生活とのバランスが取れなくなっていたのは否定しない。