雨のようなひとだった。
マスターが言うようにあそこが『呼び寄せる』店であるのなら、俺は間違いなく呼ばれたんだろう。
床に転がったままの煙草が視界に入った。
煙草は嫌いだと、煙草の匂いをさせる俺は嫌だと言われれば言われるほど意地になって吸っていたもの。
忙しさに「かまけて」会う日が減っていったんでしょうと責められた時にすら、俺は吸っていた。
煙草を吸い始めたのは何がきっかけだったんだっけ。
もう思い出せない。
カッコつけるのに丁度よかったのも本当だし、大人の男って感じがして悦に浸るアイテムとしても良かった。
……焦がれてやまない人に会える機会となったのも煙草だった。
「ま、俺がダメにしたんだけどな…‥」
泣くのを堪えるように唇を引き結び、俺を睨んでいたあの人を思い出す。
クッションを投げて煙草を隠した。
俺の勝手でダメになったけど、俺だって傷ついたんだ。
社の喫煙ブースに行けなくなったくらいには、傷ついた。