雨のようなひとだった。


 硝子の向こう側を足早に歩いていく社員たちを眺めながら、煙草をスタンド灰皿に押し付けた。

 まだそんなに吸っていない。だって半分以上残っている。
 時間も20分程度しか経っていないというのに気付けば既に3本目だ。

 地球の事まで考えるほど真面目じゃないが財布には全く優しくない現実は無視できない。
 これを最後にしようと言い聞かせながらもう1本を胸ポケットから取り出し、ライターを鳴らした。

「……マジか」

 カチカチと空音を繰り返すばかりで灯されないそれを胸の内側へと戻し、煙草は咥えたまま壁に寄り掛かる。

 視線は硝子の向こう側。
 会社の喫煙ブースは廊下側は全て硝子だ。つまりは丸見え。
 喫煙者の逃げ込みスペースになりがちな喫煙ブースを硝子張りにすることで、要はサボらせねぇぞ、というところなんだろう。




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