雨のようなひとだった。

 噛んだ煙草をブラブラさせながら廊下を歩いていく人間を眺める。
 時折こちらをちらりと見遣っていく社員は決して少なくない。

 ここへ来る事を躊躇していた自分が阿呆らしいと思うほどには、緊張が解けている。
 ただし長時間居座ることはまだ無理そうだ。
 腕時計を見る感覚が狭すぎる。

 両腕を伸ばして軽く筋を伸ばした。
 今は俺以外居ない。珍しい事もあるものだ。

「イテテテ」

 長い事PCの前に座っていたせいか肩が鈍っている。
 廊下側の人間から見てダサくない程度に腰から上を捻ってみたり、軽く肩を揉んでみた。
 そして硝子とは真逆の窓側へ捻り、元の姿勢へと戻った時。

「………あら」

 音もなくブースへ入ってきた女と目が合った。


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