早春譜
 テーブルの周りの椅子に早速腰を下ろしてもらった。


「まずこの形式だが、輪になって同座するので運座と呼ぶんだ」


「テーブルの上を見てください。小さな紙がありますね。短冊と言います。さっき吟行で作った俳句をそれに一句ずつ書いてください。勿論無記名です」


「最初なので、二句ってことにした。さっき渡したメモ用紙を参考にするように」


「書けたら折って箱の中でシャッフルしてください。そこから各自二枚ずつ引いて、この紙に書いてください」


「これは半紙を半分に切ったんだ。これに写すんだよ。それを清記と呼ぶんだ。手にした短冊の俳句を一言一言正確に書くんだ。誤りがあってもそのままで、片仮名で小さくママと書いておくんだ。そのままのママだ」

淳一の指示に従おうと皆無口になって作業に当たった。




 「書き終えたら、清記の下に自分の名前を書いておくんだ。工藤淳一清記。よしこれで終了」

淳一は書き終った紙を皆に見せた。


「此処から一となる。この二つの句が一と二だ。時計回りで番号を付けていくんだよ」


「はい。解りました」
皆一斉に言った。


「さあ、書き終えたら回すんよ。その中に気に入った句があれば半紙に書き写す。そこから一番だと思う句を発表するんだ」


「それじゃ工藤先生からお手本見せて」


「俺からか?」


「だって此処に居る全員……、あっ工藤先生の妹さんは特別授業でご存じかも知れませんが……」


「えっ!? 私、そんな特別授業なんて受けていませんが……」


「聞いたわよ。例の写真の裏書き」


「えっ、何それ?」


詩織は仕方なく桜の写真をスケジュール帳から取り出した。


「前向きに生きればこその春隣り。か……」


「足の骨を折った私を勇気付けるために先生が贈ってくれたの」


「素敵な句ね。私もこんなが作りたいな」


「そうか? そんなに素敵か? 草いきれ、見渡す土手に、限りなく。草いきれって言うのは、草が熱気を持っている。みたいな夏の季語だ。これ誰のだ?」

淳一ははにかみながら選句した紙を手にした。


「あっ、私です」


「草いきれなんて良く知っていたな」


「だって、事前に勉強したもん。俳句部……ううん、俳句同好会に入ったからにわね」


「わぁーズルい。私も勉強しておけば良かった」

同好会のメンバーがため息をはいた。


それでも、何だかんだ言いながらも和気藹々と同好会の活動は終了したのだった。



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