Time Paradox

繰り返される転生

リリアーナの意識が戻り起き上がると、つい彼女はその場で嘔吐してしまった。

夢にしてはあまりにもリアルで、ロイドの視点を通して鮮血の臭いや首を刺す感覚までもが共有されていたからである。

全てを見ていた妖精は、苦々しい表情を浮かべながら口を開いた。

「…今のはほんの一部であって序章に過ぎないわ。あの石に触れた時に全てを見たでしょう?あいつは何度転生を繰り返してもあなたを殺したわ。その度にあなたの魔力を奪ってきた。それを取り返すのは容易ではないわ。」

「…だから私には魔力がほとんど感じられないのね…記憶を失っていたからではなくて、魂そのものに魔力が残ってないの?もしかすると私、今世でも殺される予定なんじゃ…」

「うーん、そうとも言い切れないわ。殺されるかどうかはあいつの目的次第だとして…今見てきたあなたの人生では少なくとも転生後にまた魔力が三分の一ほど戻っているの。
あの薬の弱点はそこなのよ。最初の人生ではロイドも魔法の副作用で自決した。でも次の人生以降であいつは死んでないの。だからあいつは魔力を吸い取ったまま生きれるんだけど、あなたの魂が生まれてきたら前の人生の魔力の三分の一がリターンされて、あいつもそのぶん力を失うわ。
そしてもう一つの副作用はね。あいつもあなたもずっと同じ家系に縛られて転生していることなのよ。」

「でも、転生を繰り返してるうちにどんどん私の魔力は減っているし、フォルスの時代だった頃のケインズ家に比べて今のケインズ家は魔力もないし、落ちぶれてしまっているわ!」

「魔力は今も全くないわけではないけど、最初のフォルスの頃に比べるとまぁ…ね。あいつもそれを分かってて何度も転生を繰り返させて、最後に今世で王家を乗っ取った。つまり今世では目的は達成しかけてるのよ!あらゆる手を使ってケインズ家を滅ぼしてみたり、今までの人生とは何かが違うみたいな…賭けに出ている気がするわ。」

「たしかに。今までの人生ではその機会をうかがっていたけど、やっと今世で…。だけどもう王家は乗っ取れてるしこれ以上何を…」

リリアーナはそこまで言いかけたところで、少し前に聞いていた不穏なピアノの音を思い出した。

聞いた事のない曲だったが、ロイドだった頃の音楽性と転生を繰り返して大きくなった魔力を併せ、新たな魔法を創り出したのではないだろうか。

リリアーナやケインズ家、ナトリー家に対する執着よりも、もっと大きな規模で何かを企んでいるのは間違いなかった。

そして恐らく、その魔法は明日のアドルフの演奏で発動される。

リリアーナは真っ青になっていたが、妖精は落ち着き払った様子で壁から生えているブルーの石をもぎ取った。

「この石はあなたの記憶を呼び覚ましたり、魔力を増幅させるのに役立つわ。あとその指輪についている石は私の要求したものとは別物。全く役に立たないわよ。
こっちを使いなさい。」

妖精はもぎ取った石を魔法で加工し、リリアーナの指輪のトパーズと入れ替えた。

そして洋服から見えないような長さのネックレスを壁の宝石で作ると、リリアーナの首にそっと通した。

「これがあなたのお守りよ。過去に行きたい時はこれを持って森に来て。」

そう言って妖精は隠し通路の先を進んでいった。
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