Time Paradox
いよいよ作戦決行の夜、リリアーナは22時過ぎに自室で寝巻きに着替えていた。

首元が見えないようなデザインのものを選び、例のネックレスには妖精に付け替えてもらった石付きのリングが通してある。

あとはアドルフが寝る前の挨拶にやって来るはずだ。

案の定、リリアーナの部屋の扉がノックされ、アドルフが顔を出した。

「ハンナ様、挙式はいよいよ明日ですね!明日も早いので、今夜は早めに休みましょう。」

そう言ってアドルフはソファーに座っていたリリアーナの方へとやって来た。

「明日は何時だったかしら?たしか…」

「ハンナ様は朝の5時には衣装部屋に行っていただき、準備が始まりますから。明日は寝坊できませんよ。」

アドルフはリリアーナの顎に手を添え、近い距離で目を見つめた。

これはアドルフがよく使う魔法で、相手の目を覗き込む事で自分の都合のいいように印象操作をさせるものだ。

過去の石に触れ、記憶を取り戻した今のリリアーナにとっては全く効果のない魔法だが、魔法の反応速度と同じ速さで掛かったフリをしなければならない。

「…楽しみだわ。この時をずっと待っていたの。早く明日にならないかしら?」

「…ふふ、眠ってしまえばすぐですよ。」

そう言ってアドルフはリリアーナの目を閉じさせる動きをすると、そのままベッドに運び込んだ。

もちろんリリアーナは掛かったフリをしなければならないので、目を閉じてできる限り全身の力を抜いた。

アドルフはリリアーナを寝かせると、リリアーナの寝ているベッドの淵に腰掛け、リリアーナの髪をそっと撫でながら囁くような声で言葉を続けた。

「…明日は頼むよ、フォルス。今世では君を殺したくない…。魔法の要らない国を創るにはこれしか無かったんだ。許して欲しい。」

アドルフはそう言ってそっと部屋を後にした。
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