Time Paradox
夕食が終わり、2人は牢獄ではなく部屋へと案内される。

リリアーナは前まで使っていた部屋に暮らし、ジャックは明日までその隣の客間に泊まる事になった。


部屋に入るとそこはまだ、ハンナのための部屋だった。

全体的に白とブルーを基調とし、天蓋付きのベッドや調度品など、本当にあの日から何も変わっていないようだ。

ベッドに座ると、そこからドレスのたくさん入っているクローゼットが見えた。


リリアーナは立ち上がって開けてみると、色とりどりの美しいドレスがハンガーに掛かっていた。

だが、たくさんのドレスの中に一際輝いて見える、黄色のドレスを見つけた。

「…お母様の…」

それを取り出してみると、膨らんでいる袖やオーバースカートの部分は透ける素材で、上半身の部分とドレスのスカートは光沢のある生地でできている。

アーノルド家で着たドレスとはよく似ている気がしたが、全くの別物だった。

リリアーナはそれをそっと仕舞うと、クローゼットの扉を閉めた。

するとドアを閉めた時に生じた風により、紙がひらひらと床に落ちた。


「…なに、これ?」

それを拾って見てみると、まるでこの部屋のような色合いの綺麗な紙だった。

何かの文字が書いてあったようだが、その上からグリグリと消されていて分からなかった。


リリアーナがソファーに座りながら、それを光に当てたり裏返したりして眺めていると、ドアをノックする音が聞こえた。

「はい!」

リリアーナがドアを開けると、そこにはアドルフが立っていた。

「ハンナ様、お部屋はいかがですか?」

「ありがとう、とっても懐かしいわ。」

だがアドルフの視線はリリアーナの手にしている紙に注がれている。


「ハンナ様、その紙は?」

「え?あぁ、さっきクローゼットを閉めたら出てきたの。でも私、こんな便箋持ってなかったから誰のだろうって。
そういえばこの部屋って、私がいない間にも使われてたの?」

「いえ。客が来た時は客間を使うので、この部屋はずっと空き部屋でしたが。」

「そうだったの?まぁ、この部屋を使わなくてもお部屋はいっぱいあるものね。」

そう言ってリリアーナは部屋を見渡した。


「ところでハンナ様、先ほどジャック様と絵本とか森とか話してましたが、何をしようとしていたんですか?」

「あぁ、そういえば後で話すって私言ってたわね!これは話すと長くなるんだけど…」


リリアーナはそう言って、アドルフに両親を救うための作戦を打ち明けた。
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