Time Paradox

アドルフの考え

アドルフはリリアーナの説明を口も挟まずに聞き終えると、何かを考え込んでいるような顔をして頷いていた。


「アドルフ?」

アドルフはリリアーナの呼びかけに我に返る。

「…大丈夫だと思いますよ。」

「本当?アドルフなら分かってくれると思った!そういえば、私たちずっと立ったままじゃない!」

リリアーナは奥のソファーに座ると、アドルフも向かいのソファーに座るよう促した。

だがアドルフは、その手を無視するかのようにリリアーナの座っている2人掛けのソファーの隣に腰掛けた。

「…あ、別に向かい側に座ってもらってもよかったのよ?」

急に近くなる距離に困惑したリリアーナは、ついそんな事を口走ってしまった。

その言葉に、アドルフはどこか不服そうな顔をしていた。


「…ハンナ様、本当は嫌ですよね?」

「えっ?」

リリアーナは何を聞かれているのかは何となく分かっていたが、あえて聞き返す。

「…僕と結婚したくないんじゃないですか?」

自分の態度や言動でそう思わせてしまっていたと思うと、リリアーナは申し訳ない気持ちになってしまった。

「違うの、ただ…」

「あの日に戻って未来を変えてしまえば、今僕と結婚しても問題ない。そういう事ですよね?」

アドルフはリリアーナの言葉を遮った。

リリアーナには返す言葉がなかった。
心の底ではそう思ってしまっていたのかもしれない。いや、思っていたのだ。

今はアドルフとの結婚を良いように利用して生き残る。
そして後で時間を遡り、結婚していたとしてもなかった事にしてしまえばいい。

この作戦はそういったずるい考えを意味するのだ。


だがそこまで考えたところで、リリアーナの中で何か引っかかることがあった。

それは、”そもそもアドルフはどういうつもりで結婚しようと思ったのか?”ということである。

リリアーナを助けるために結婚を決意したのではなかったのだろうか?
< 89 / 229 >

この作品をシェア

pagetop