Time Paradox
何も言えずにいると、アドルフは隣に座るリリアーナを押し倒した。

「あ、アドルフ⁈」

リリアーナの体はソファーの肘掛けにもたれかかるような形になった。

ソファーは肘掛けまで柔らかいため、前にリリアーナがそのまま眠って怒られる事も多々あったのだが。


そんな事を思い出していると、アドルフとの距離が徐々に近づいている事に気が付いた。

リリアーナは思わずアドルフを突き飛ばし、距離を取った。

そのせいでアドルフはソファーの端へと追いやられていた。


「…あ、ごめんなさい…」

リリアーナが小さな声で謝ると、アドルフは悲しそうな顔で彼女を見つめる。


「…僕はあの頃から、ハンナ様の事が好きだったんです。」


「…私もアドルフの事、好きだったわ。」

その言葉に一瞬、アドルフは驚いたような顔をした。

リリアーナはこの城にハンナとして暮らしていた頃、アドルフの事が好きだったのだ。

今もアドルフの事は好きだが、久しぶりに会ったからなのか、2人の間に溝のようなものを感じていた。


「…だから誤解しないでほしいの。アドルフの事は好きだけど、どうやって接したらいいのか分からないだけで…」

そこまで言ったところで何も言えなくなってしまった。

何の前触れもなく、アドルフに唇を塞がれてしまったからだ。


離れると、かなりの至近距離でブルーともグレーとも言えぬ、悲しげな瞳と目が合う。


「…何も言わないで…」

アドルフはそう言って目を逸らした。

「…どうして…?」

リリアーナは問い詰めるようとするが、アドルフは立ち上がった。

「おやすみ、ハンナ様。」

そう言い残して部屋を出て行った。
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