鬼部長の素顔


「……見過ぎ」


……えっ。あ……また。



麻耶先輩と白井さんが帰った後
私は何度自分の手を眺めているだろう


忘れていた誕生日に
忘れていた、結婚指輪

今日から一緒に暮らすと思うだけで
ドキドキなのに……
指輪が気になって、それどころじゃない


部長の左手を見れば同じ指輪……
それだけで顔が真っ赤になり
幸せを実感してしまう。


そして、1枚の紙。
部長はいつの間にか、
婚姻届を用意していた。

保証人欄には白井さんと麻耶先輩の名前
そして、部長と私の名前。



あー……私は重症だ。
そんな幸せをかみしめていたら



「なあ、検診っていつ?」



部長の言葉に私の頭にはハテナが……




……?


…………。
……。



『ぎゃーーっ!!』



私、忘れてました。
妊婦健診……
しかも、母子手帳すら貰ってきてない


さーっと血の気がひく



「ど、どうした?」



驚きと不安そうに見る部長
私は忘れていたことをすべて話し
月曜……会社をお休みすることにした


部長は笑っていたけど
こんな自分が心底嫌になった
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