とっくに恋だった―壁越しの片想い―


「明日も平日だし、俺はまだ一本しか飲んでないけど……なんで? もしかして酒くさい?」

不思議そうに聞いてくる平沢さんに「だって、靴下のままですし」と指をさして指摘すると、「あー……」と苦笑いが返された。

「これは、酔ってるからじゃなくて……その、慌てすぎて。だって、土田が飛び出してくし。華乃ちゃんになにか変なことしないか心配で」

平沢さんの隣で、土田さんが「失礼だなー」と、なにがおかしいのか、ケラケラと笑う。

平沢さんは本当に酔っていないみたいだけど、こっちは完全な酔っ払いだった。

明るく笑う顔を、いかにも平沢さんの友達っぽいなぁと思い眺めていると、不意に目が合い、話しかけられる。

「ねぇねぇ、華乃ちゃん。ごはん食べた?」
「え……これからですけど」

「だったらこっちきて食べて行きなよ。いろいろあるよー。ピザもとったし、コンビニでも適当に買ってきたから」
「あー……いえ。大丈夫です」

平沢さんと距離を置こうとしてるのに、というのも、もちろんあるけれど。

こんな酔っ払いたちと一緒に食事をする気になんてなれない。

だから苦笑いを浮かべながら断ったのに、土田さんはグッと私の腕を掴むと、引きずるようにして歩き出す。

「そんなつれないこと言わないでさー。はい、華乃ちゃん連行~」
「ちょっと! いやですっ、離してくださいっ! 仕事で疲れてるんですっ」

平沢さんも「土田っ、いい加減にしろよ!」とこちらに加勢してくれるけれど、酔っ払いの耳には届かない様子だった。

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