どこにも行かないで、なんて言えないけれど
「いらっしゃい」

「うん、こんばんは」


雪は静かになり始めたようだけど、一応素早く迎え入れる。


風は吹いていないけど、気温はかなり低い。


見上げた碓氷さんは寒そうだ。


ほんの少し、筋の通った鼻の頭が赤い気がする。


「お邪魔します」

「どーぞどーぞ」


礼儀正しいいつも通りな碓氷さんと、結構適当なわたし。


これも毎年同じやり取り。


コートの雪を払うのを待って、スリッパを並べる。


「あ、碓氷さん待って、ちょっとしゃがんで」

「なに?」

「雪残ってる」


ありがとう、としゃがんだ碓氷さんの頭にそっと手を伸ばす。


近づくと、ふわり、少し甘い匂いがした。


ケーキの匂い、否、優しい香水の匂い。


……ああ、わたしも早く大人になりたい。


お化粧したいし香水つけたい。


そうしたら大人っぽくなれるのに。


高校生のうちは何もしないと決めている。


碓氷さんの彼女さんたちがみんな、そうだったから。


背伸びしても意味がない。


年が追いつくのに合わせて、ひとつずつ、ゆっくり追いかける。


面影を追うのは自由だ。
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