どこにも行かないで、なんて言えないけれど
美味しいとケーキをぱくつくわたしに、頬を緩める碓氷さん。


やはり、褒められるのは嬉しいらしい。


二人で何でもないことをとりとめもなく話して、食べて、飲んで。


食べ終わって時計を見ると、もう遅い時間だった。


「今年もありがとう。お皿はわたしが片づけておくから、置いてって」

「俺も手伝うよ」


律儀に運ぼうとする碓氷さんを押しとどめる。


「いいよ」


馬鹿だねと笑った。


「あんまり遅いとさゆりさんが心配するでしょ?」

「言ってあるし、そんなことな」

「女心が分かってない」


だから碓氷さんは馬鹿だ。


「ひどい。風花ちゃんが可愛くない」

「いえーい、ありがとー」

「……可愛く、ない……!」


うなだれる碓氷さんの左手の薬指には、指輪がはめられている。


「付き合わせてごめんね。楽しかった」


意識して口角を上げた。


あとちょっとだから。


あともう少しだから――笑え、わたし。
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