どこにも行かないで、なんて言えないけれど
「さゆりさん待ってるんだから、早く帰ってあげなよ」


平静を装おうと頑張れば頑張るほど、静かに視界の隅で存在感を増す輪のきらめきを、見ないようにする。


碓氷さんはめったに指輪を外さない。


なくしたら怒られるから、とおどけて言う碓氷さんこそが、

実は絶対になくしたくないと思っているのを、

何より奥さんを大事にしているのを、


少し親しい間柄の人ならみんな知っている。


優しい碓氷さんの奥さんであるさゆりさんは、碓氷さんみたいに優しい綺麗な人だ。


クリスマスという特別な日に夫を呼びつける高校生を、迷惑がらずに可愛がってくれる。


うちのでよければどうぞ、なんて笑ってくれる。


わたしが本当は、遠慮しなきゃいけないのに。
< 17 / 23 >

この作品をシェア

pagetop