どこにも行かないで、なんて言えないけれど
「碓氷さんに恋してる」とお母さんたちがわたしをからかうのは。


碓氷さんとさゆりさんが、誰も入り込めないほど仲がよくて、恥ずかしいくらいラブラブなのを知っていて。


既婚者の碓氷さんに、わたしが道ならぬ恋をするとは思っていないからだ。

わたしはそんなことをしないと、信頼してくれているからだ。


それでは黙るしかなかった。

わたしにはずっと、何も言わないという選択肢しかなかった。


「さゆりさんによろしくね。新作楽しみにしてますって言っておいて」


好きですなんて言えるわけがない。


「一番に買いに行くから。あと――」


お嫁さんにしてなんて、言えるわけがない。


たとえ笑い話にしたとしても、胸のうちを明かしたくなかった。


そんな馬鹿なことをするくらいなら、道化になるほうが幾分マシだ。


わたしだって、自分より好きな人が幸せな方がいいさ。
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