どこにも行かないで、なんて言えないけれど
「……照れるからやめてよ、もう!」

「照れろ照れろ」


うりうりと小突く碓氷さんの手に逆らわずに、わああと騒ぎながら俯く。


顔は隠れただろうか。

うまく、誤魔化せただろうか。


急いで表情を作る。


「今度見に来て。うちの子かっわいいから」

「のろけるなら聞かなーい」


つーん、と耳をふさいだわたしに、えー、と抗議。


「そこは聞いとこうよ」

「やだよ、何でよ。どうせ延々同じ話繰り返すくせに!」

「けち!」

「でも行くけどね! その子とさゆりさんに、会いにね!」

「俺にも会いに来てよ」

「のろけないならね」

「それは無理」

「じゃあ行かなーい」


ひどい、と拗ねる碓氷さんに無理矢理笑いかける。


――ああ、限界だ。


わあわあ言い合いをして、笑って、見送って。


姿が見えなくなってから、わたしは勢いよく自分の部屋に飛び込んだ。
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