思いがけずロマンチック

綺麗に汚れを落としたジャケットを持って、役員室に引きこもっている有田さんの元へ向かった。これで少しは私を見直してくれるに違いない。


「有田さん、綺麗に落ちました、一応生地を傷めないように気をつけたつもりです、確認してください」


モニター越しに顔を上げた有田さんは小難しい顔のまま、私からジャケットを受け取った。まじまじとジャケットを見る有田さんの顔色を窺っていると緊張してしまう。

自信までもが揺らぎそうに思えた頃、有田さんが振り返った。小難しい顔に柔らかな笑みを浮かべて。


「ありがとう、綺麗に落としてくれたから
どこだったかわからないほどだ」


と言って、ふわりとジャケットを羽織る。風が舞って煽られた髪が心地良さげになびいて、テレビのCMか何かのワンシーンみたい。

ぽかんとする私に気づいて、有田さんが首を傾げる。さも、どうしたのかと言いたげな顔をして。


「失礼しました、これから本社に行くんですよね、すぐに修正作業に取り掛かります」


慌てて目を逸らしたけれど、胸の奥がこそばゆい。何だかよくわからない感覚が気になって顔を上げられなくなる。


「急がせて申し訳ないが、30分くらいで仕上げてもらえると助かる、よろしく頼むよ」

「わかりました、必ず間に合わせます」


胸の奥のこそばゆさを抑えるように、強い口調で言い切った。急かされているというのに忙しいほどに使命感を感じてしまう。ジャケットの汚れも落とすことができたのだから、修正作業だってできるはず。


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