思いがけずロマンチック
もう一度礼をして部屋を出ようと振り返る。
「ありがとう、お弁当も美味しかったよ」
背中に投げかけられた予期せぬ言葉が、私の足を止めた。さっき抑えたはずの胸の疼きが再び顔を覗かせて、じたばたと騒ぎ始める。
そっと深呼吸してから振り向くと、有田さんは席に着いてモニターの陰に隠れてしまっていた。がっかりしたような、安心したような複雑な気分。
「ありがとうございます、明日も食べて頂けますか?」
図々しいと十分わかっているけれどダメ元で言ってみた。今ならどんな言葉を返されようとも怖くない。だって顔が見えないから睨まれることもない。
それに、何でもいいから返事がほしい。なにを言われようとも返事をくれないよりはずっとマシ。
かかってきなさい、とモニターを見据えた。
向こう側にいる有田さんの揺らぎのない顔を想像しながら。するとモニターの陰から有田さんが顔を覗かせる。
「作ってくれると言うなら有難く頂こう、但しカボチャはやめてくれ」
「ありがとうございます、かぼちゃは避けますね」
にこやかな笑顔で返すと、有田さんは恥ずかしそうに頷いた。モニターに隠れる有田さんの口角が緩やかに上がったのは、きっと気のせいではないはず。