思いがけずロマンチック
有田さんがゆっくりと顔を上げた。
嘘だと知らずに安心したような顔だけど……
「それならよかった、もうひとつ謝りたいことがある、明日からお弁当はいらない」
発せらせたのは全く予期せぬ言葉だった。
それは私から有田さんに告げるはずだった言葉。先に言われてしまったらどんな反応をすればいいのか、何と言って返せばいいのかわからなくなるじゃない。
「どうしてそんなことを?」
「いや……味がどうとかいうわけじゃない、美味しいと思う、だがお弁当を作るために毎日早く起きるのは大変だろう?」
有田さんの視線は落ち着かない。いつものキレのある口調ではないから不自然で、違和感を感じずにはいられない。
「大変じゃないです、今日はたまたま作れなかっただけです」
自分でも何を言っているんだかわからなくなってきた。きっと有田さんの態度にイライラしているんだと思う。
「お前の負担になっているのなら無理には頼めない」
「負担なんて感じてません、明日からも作らせてください、お願いします」
気がついたら立ち上がっていた。机に手をついて前のめりになって、有田さんに詰め寄る態勢で。これではまるで喧嘩を売ってるみたい。
「それなら頼んでもいいか? 但し負担にならないように」
有田さんが申し訳なさそうに頭を下げるのと同時に、私は再び勝利を確信した。