思いがけずロマンチック
「本当に好きな町なんですね」
「うん、好きだよ」
笠間さんがふわりと笑顔を見せた途端に、止まっていた時間が動き出す。ほっとする私に差し伸べられたのは笠間さんの手。
「近いうちに移転の下見を兼ねて行く予定なんだけど、よかったら一緒に行かない?」
顔を上げたらもう一度、笠間さんが笑う。かつて商談した時に見せた勘違いしそうなほどの笑顔に、私は目を合わせていられない。
目を逸らしてもなお笠間さんは手を差し伸べたまま、私の返事を待っている。
こんな場合はどう答えればいいのだろう。断ってしまったら次回の仕事さえも断ったと思われたりしないだろうか。
だけど今、笠間さんの手に私の手を重ねたらどうなるのだろう。すっかり勘違いされてしまうかもしれない。
「私が一緒に行ってもいいんですか?」
さんざん悩んだ末に問いかけたのは至って単純な言葉。
ようやく笠間さんは満足したような笑顔を見せて、手を引っ込めてくれた。
「今すぐではないけど近いうちにね、ここの閉店と無事に新店舗を開店できる時には唐津さんに仕事をお願いしたいしね」
「ありがとうございます、是非よろしくお願いします」
仕事を依頼してくれるというからひと安心。まだ気持ちは完全には晴れてくれないけれど、新しい町での再出発に期待したいと自分に言い聞かせた。