思いがけずロマンチック
誰かに疑われるというのはいい気がしない。
疑われているかもしれないと思うと、これまで何にも気にしなかった自分自身の行動でさえ必要以上に気を遣ってしまう。
少しの時間席を空けるのも、他の人宛ての電話を取り次ぐ時も周りの目を気にせずにはいられない。
と言っても私を疑っているのはたったひとり。
何故そこまで私を疑うのだろう。会社全体の命運をかけたプロジェクトでもなければ、大人数で取り掛からなければならないような大きなプロジェクトでもない。小さな洋菓子店の新装開店企画で、まだ受注があるかどうかもわからない。
本来なら私ではなく他の営業担当が当たるべき企画。私が無理を言って担当させてほしいと頼んだから、何か裏があるのではないかと思われているのだろうか。それとも私が手柄を独り占めしようとしていると思われているのだろうか。
有田さんが私を疑うように、私も有田さんを疑わずにはいられない。
「唐津さん、最近どうしたんだ? ぼーっとしてばかりだね」
視界の端から飛び込んできたのは益子課長の顔。驚いて仰け反った背中が椅子の背もたれに勢いよくぶつかった。
「すみません、ちょっと考え事していました」
「毎日毎日考え事ばかり……、燃え尽き症候群というのかもしれないがそろそろ切り替えてもらわないと困るよ」
益子課長は大きな溜め息とともに嫌みたっぷりの口調で首を振る。