思いがけずロマンチック

昼休みを終えてすぐに電話が鳴った。正確には私のデスクの電話ではなく机上に置いていたスマホが震えた。着信は笠間さんからだ。


やましいことは何にもないというのに、とっさに席を立って速足で事務所を出て、エレベーターホールへ向かう。


途中で電話が切れてしまうのではないかとひやひやしながらもエレベーターホールにたどり着いて、やっと笠間さんの声を聴いた頃には息が上がってしまっていた。


「遅くなってしまって……、すみません」

「ごめんね、忙しかった? あとでかけ直そうか?」

「いいえ、大丈夫です。昨日は事務所までに来て頂いたのに外出中で、本当に申し訳ありませんでした」


今朝から役員室にこもりっきりの有田さんを警戒して、笠間さんに電話しなければいけないことをすっかり忘れていた。昨日来てくれた御礼を言い忘れてしまうなんて営業職以前の問題、いや社会人として失格だ。


笠間さんと話しながらも事務所のドアが開く音が聴こえてくるたびに警戒してしまう。有田さんが様子を窺いに来たのではないかと思ってしまって、ここでは落ち着いて会話もできない。



< 173 / 228 >

この作品をシェア

pagetop