思いがけずロマンチック

そして屋上の一番奥のベンチには見慣れた背中があった。


「だったら……、ほんの少しだけ僕も顔を出させてもらってもいいかな?」


直後に発せられた笠間さんの言葉が耳を素通りしていく。


私の視線の先には有田さん。今朝から役員室に引きこもっていると思っていたのに、いつの間に移動してたんだろう。悟られぬように気配を消しつつ窺ってみると食事をしているらしい。あれは私の作ったお弁当だ。


「唐津さん? もしもし? 聴こえてる?」


笠間さんの心配そうな声が私を呼び戻す。


有田さんに見つからないようにと気配を消すことばかりに集中していて、自分が電話中だということを危うく忘れてしまうところだった。
とっさに有田さんに背を向けて電話へと意識を集中させる。


「すみません、えっと……」


だけど完全に忘れてしまっていたのは直前に笠間さんが言ったこと。いくら記憶を辿っても素通りしてしまった言葉を呼び戻すことができない。


すると笠間さんがくすりと笑った。




< 175 / 228 >

この作品をシェア

pagetop