思いがけずロマンチック
誰もがその場に固まった。
突然発表された有田さんへの辞令に、ただ驚きと困惑の表情で立ち尽くすだけ。私も皆と同じ。真偽を問いたい気持ちを抑えながら有田さんを見つめることしかできない。
この辞令を事前に知らされていたのだろうか。有田さんは驚いた様子もなく、ほとんど無表情で清水部長を見据えている。
ふいに頭に浮かんだのは先日のエレベーターホールでのこと。
あの時、有田さんと私のやりとりを誰かに見られていたのかもしれない。それがいち早く営業部長の耳に届いて、有田さんが経営責任者を解任されることなったのかもしれない。
だとしたら、有田さんの解任は私にも責任がある。
清水部長が表情を緩ませて口角を上げた。自らが作り上げた、この会場を包む張り詰めた空気に満足したように。
「有田君の後任には益子君を経営責任者として皆さんを引っ張ってもらいます。今後ともご協力をよろしくお願いします」
会場へと向けた言葉は、本当は有田さんへと向けられたものだ。
益子課長がずっと本社に行っていたのは、このためだったのかもしれない。有田さんの後任になるための話を進めていたのかもしれない。
いろんなことが頭を巡るけれど、混乱してしまった思考は落ち着く場所を見つけられない。
清水部長は鋭い視線を有田さんへと注いだまま。反発しているのか、有田さんも決して目を逸らそうとはしない。
「有田君、こっちに来て皆さんに挨拶しなさい」
清水部長が目を細めて、有田さんに手招きした。