思いがけずロマンチック
有田さんが壇上へと上がっていく。清水部長から笑顔とともに渡されたマイクを握り締めて、小さく息を吸い込んで振り向く。
私の方へと。
気のせいじゃなくて確かに目が合った。
と思ったのは一瞬、有田さんの視線はすぐに会場の皆へと向けられる。
「本日はありがとうございます、清水部長から紹介頂きました通り、私はこの会社の経営責任者を退きます」
有田さんの声は予想以上に澄んでいた。
まるで解任を素直に受け入れているかのように。
経緯はわからないけれど、あの時が原因なら私も解雇されるべきだ。規則を変えるためとはいえ、有田さんを落とす作戦なんて考えが浅はかだったのかもしれない。
いろんな気持ちが頭を巡る。
「しかし一切関わりがなくなるのではありません。これからも皆さんと共に、皆さんが積み上げてきた戦力と技術を、もう一度私に預けて頂けないでしょうか」
力強い声が会場の緊張と沈黙を解いて、会場がざわめき始める。ざわめきに混じっている困惑の色は、さっきまでとは少し違う。
清水部長と益子課長も顔を見合わせて、 意味がわからないという表情をしている。ふたりの表情から読み取れるのは不安と焦り。