ルルー工房の月曜の午後
ⅱ.
ⅱ.


――どこの誰だか知れねぇ奴を工房に入れるわけにゃいかん。


――うちはこの前あんたみたいに素性のはっきりしないのを迎えて、貴重な絵具を盗まれたんだ。


――今忙しいんだ、他当たんな。


ベルは路上に立ち尽くしたまま、行く先々で言われた言葉を頭の中で反芻した。


甘く見ていた。

技術さえあれば、工房への弟子入りなど容易なものだと思っていた。

技術が足りなくてレイエ工房に入れなくても、他の工房に転がり込めばいいと思っていた。


だが、このままでは他の工房に入れてもらえるかも怪しい。

レイエ工房の男の口ぶりからすると、おそらくはどの工房も、身元が知れない自分を入れてはくれない。


「どうすれば……」


途方に暮れて、空を見上げる。

青かった空には、うっすらと朱が差してきている。

とりあえずは、泊まるところを探したほうがいいかもしれない。


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