ルルー工房の月曜の午後
そう思い立って歩き出そうとした、そのとき。
「――やめてっ!」
若い女の、短い悲鳴がベルの耳を刺した。
振り返ると、立ち並ぶ石造りの建物の間、すこし狭い路地の入り口で、男と女が揉めているのが見えた。
男は縦にも横にも大きく、その無駄に大きな図体をさらに大きく見せる仰々しいしぐさで、顔だけは愛想良く女に話しかけている。
まだ陽のあるうちだというのに酔っているのか、赤い顔をしていた。
対して女は――否、少女と言ったほうがいいだろうか。
おそらくはベルとそう年の変わらないその少女は、ほっそりとして美しい顔立ちをしていた。
勝気そうな大きな瞳は透き通るようなセルリアンブルー。
ゆるく波打つ長い髪はすこしくすみのかかったアンティークゴールド。
薔薇色の頬にさくらんぼ色の唇が、白磁の肌に映える。
「迷惑よ。はなして!」