強引なカレの甘い束縛
『すごい人だな、いい部長の下で働くことができて幸せだな』
と何度も思った。
バーベキューでひとり言をつぶやくのは、まだ公にはできない人事情報を社員に察してもらい、自分の業務に影響があればあらかじめそれに備えて手を打ったり、大原部長の耳に入れておいたほうがいい情報を社員が持っていればそれを伝える。
それは 人事異動による弊害を少しでも少なくするためのもの。
そして、カップルがバーベキューに参加するのは、自分たちが近いうちに結婚することを周囲に知らせるためだ。
いずれ異動があるのなら、結婚式の日程を考慮しなければならない。
女性も同じ会社の社員だとすれば、彼女の上司と退職時期を相談しなければならないし、仕事を続けたいのならば彼女のキャリアを考慮してふたりともが満足いく道筋を用意しなければならない。
事前に大原部長に知らせておけば、完全に希望通りとはいかないまでもふたりが不幸になる異動は避けられる。
若い頃、異動による単身赴任が多く家族と過ごす時間を犠牲にしてきた大原部長だからこそ、そんな配慮をしてくれるのだと、陽太はしみじみとした口調で言っていた。
仕事をするために生きるのではなく、幸せに生きるために仕事をするのだから、自分を犠牲にしてまで会社に尽くすことはない。
上司が可能な限り力を尽くせば社員が気持ちよく異動できるのならば、それをするのは上司の義務。
そして、社員が気分よく仕事に励めば会社の業績も上がる。
バーベキューにカップルで参加するということは、そんな意味があったのだ。