強引なカレの甘い束縛
流れるような口調で迷いなくそう話す奥様は、少し離れたところでバーベキューコンロに火をおこしている大原部長をちらりと見た。
「ああやって着火剤を使って火をおこすってことも、私が教えたのよ。小さな頃からお勉強ばかりして育ってきたお坊ちゃんだから、結婚してからの育て甲斐ったらなかったわ。今でも世間離れしたおじさんだけど、七瀬ちゃん、よろしくね」
「は、はい。あ、いえ、こちらこそ」
「ふふっ。とはいっても、ここに来たってことは、そろそろ……なのね。ね、陽太くん。早めにあの人に言って、後任のお世話係を考えてもらわなきゃ」
奥様の意味ありげに陽太を見ると、同じように私にも視線を向けた。
「あの、奥様……なにか……?」
「奥様なんてガラじゃないからやめてちょうだい。薫さんって呼ばれると嬉しいの」
「薫さん、ですか?」
「そ。ここでは無礼講よ。陽太くんもそう呼ぶし、七瀬ちゃんのことは七瀬ちゃんでいいのかしら? 陽太くん?」
まるで何かを含んでいるような表情が気になる。私に探りを入れるような、それでいて楽しそうな瞳。私の知らないことがありそうで、隣の陽太を見た。
「七瀬ちゃん、でいいよな。俺はずっと七瀬って呼び捨てだけど。それよりも、とにかく今は肉だ肉。ほら、俺らを呼んでるから行くぞ」
陽太は嬉しそうに口元を緩めると、バーベキューの準備をしている会社の人たちに軽く手を振った。