強引なカレの甘い束縛
少しもぶれない視線の先にいる稲生さんは、捕えられた獲物のように体を硬直させ、視線だけ、下げた。
「あ、あの、稲生さん?」
顔色を失くした稲生さんに声をかければ、輝さんが相変わらずの飄々とした声でつぶやいた。
「なるほど。市川が引きずってでも取り戻すって言ってたのは、彼女のことなんだな」
「え、引きずってって、そんな乱暴な」
「あ、七瀬ちゃんが心配するようなことじゃないから安心して。男女の恋愛のあれこれには、まあ、いろいろ、な。引きずり出してでも自分のものにしたい熱い感情があるんだよ。とくに男は」
何かを思い出したのか、そう言ってふむふむと頷く輝さんと、「引きずるっていうのが気になるなら、羽交い絞めにして俺の目の届くところに置いておく。とでも言いかえるよ」とさらに後ずさりそうな言葉を口にする市川君。
その市川君は、視線だけで稲生さんを想うがままにできそうなほどの強い感情を露わに見せている。
「わあ、稲生さん、ロックオンされたね」
「は? 誰が誰にロックオンだって?」
「ん?」
頭上に聞こえた声にはっと視線を向けると。
「え、陽太、どうしたの」
「仕事終わりに砂川さんがわざわざ来て、『マカロンでイケメン店員にナンパされる可能性が高いふたりを放置しておいていいのかしら?』って意味深に言い捨てて帰ったんだよ。ナンパなんて冗談じゃないって慌てて来たけど、で、この超イケメン店員はどっちをロックオンしたんだ? まさか七瀬じゃないよな」
仁王立ちに近い姿勢で市川君をにらんだ陽太は、私の肩に手を置くと、そっと自分に引き寄せた。
スツールに腰かけていた私の体勢は一気に崩れ、慌てて陽太に縋りついた。
「よ、陽太、危ないから」
「俺が支えてるから大丈夫だろ」
「そんなこと言ったって。それに、この状態で私がナンパされてるわけがないでしょ。ナンパっていうか、稲生さんが市川君と知り合いだったの、それだけ」
「知り合い?」
変わらず疑い深い声で私たちを見る陽太に、輝さんがくすくす笑いながら声をかけた。