強引なカレの甘い束縛
「そうだよね。バイオリン奏者なんでしょ? イタリアから帰って来たばかりで、音楽で食べていけるって言ってたよね。それに、稲生さんの、恋人だったって」
バイオリンのことはよくわからないし、市川君がどれほど有名なのかも知らないけれど、お店にいるお客さんから声をかけられるということは、かなりの知名度なのかもしれない。
稲生さんはCDを買ったと言っていたし、あとでスマホで調べてみよう。
「輝さん、俺にビールをお願いします。それと、何か食事がしたいんですけど、七瀬たちと同じメニューってできますか?」
「あ、大丈夫だよ。あと、いくつか見繕って持ってくるよ」
「すみません」
「いいよいいよ。……あと、市川のことだけど、俺が以前働いていた塾の生徒だったんだ。帰国して真っ先にここに顔を出してくれたんだけど、日本で生活する勘を取り戻すために、バイトさせてくれって言われてさ、俺もあいつと色々話したいし、期間限定で雇ったんだよ。まあ、バイオリンの練習や仕事が優先だけどな」
輝さんはそう言って、奥の厨房へと入っていった。
残された私たち三人は、とりあえず箸を取り、手元の料理を食べる。
陽太は当然のように私のお皿に箸をのばし、おいしそうにかぼちゃを食べている。
よっぽどお腹が空いていたのか、小鉢の中はあっという間にからっぽになった。
「輝さんの料理もおいしいけど、やっぱり七瀬の料理の方が俺の口には合う」
ふむふむと頷き、優しく笑った陽太。その笑顔にときめきながら、講習会のせいで慌ただしくしていた私は、今週なかなか陽太とゆっくり話すことができなかったことに気づく。
陽太もそうなのか、じっと私を見ながら嬉しそうに口もとを緩めた。
「あの、私、帰りましょうか」
「え?」
稲生さんの声に視線を向ければ、気まずそうに私と陽太を見ている稲生さんと目が合った。