強引なカレの甘い束縛
「あ……そうですか」
「男っていうのはそういうもんだろ。こいつだって思えた女に出会える幸せを手に入れれば、その幸せを守るためになりふり構わず動くと思うしさ。稲生さんだって、そんな幸せを経験したことあるだろ」
私はカウンター席で私を挟んで会話を続ける陽太と稲生さんを、何度も交互に見つめた。
陽太が言ったはずの言葉だけど、あまりにも露骨であからさまで、これが世間の常識なのかと納得しそうになった。
けれど、そんなこと、ありえない。
私を想う気持ちが陽太の口から体から溢れていてどきどきする。
「で、稲生さんは、今でも市川巽が好きなのか?」
「え?」
「顔に書いてある。会えてうれしいって」
「まさか」
陽太のからかいに、稲生さんは、両手で顔を隠した顔をぷいと横に向けた。
でも、隠しきれていない耳が赤くてかわいい。
「いっくんは、私とは違う世界の人で、もう、接点はなくて……」
「違う世界って、彼がバイオリニストだから?」
「あ、はい。イタリアを拠点にして、ヨーロッパではかなり名前が知られた演奏家で、日本にも熱狂的なファンが多くて……もう、二度と寂しい想いをしたくないし、いっくんに置いていかれるのはつらくて」
「稲生さん……もしかして、寂しくてつらくて……」
顔を隠したまま俯いた稲生さんの肩に手を置くと、その体がほんの少し震えた。
小さな体がさらに小さくなったように思える。
「あ、ううん。いい。だけど、今も市川巽は稲生さんを見てるよ」
「……それは、久しぶりに会って、なつかしくて見てるだけです」
「そうは見えないけど」
一語一語区切るように口にするのは、まるで自分にそう言い聞かせているように思えるけれど、それを言ってはいけないような気がする。