強引なカレの甘い束縛


……といいながらも、入院した理由を聞いて、陽太がどう思うのか、不安も大きい。

私は陽太のため息に負けないほどの息を吐き出して、気持ちを落ち着けた。

そして、目の前にある、愛しい人の瞳を見つめる。

どこか不安定で、それでいて、私を信じているのがわかる表情に勇気をもらい、口を開いた。

「私にとって、この家はシェルターのようなものだったの。だった……って、言い切れるのかどうか、まだわからないんだけど。私としては、そうだったと思ってる」

呟くように始めた話に、陽太は黙って耳を傾けている。

背中を何度かポンポンと叩かれ、そのリズムに後押しされるように、私は言葉を落とす。

思い出しながら、振り返りながら、記憶のいくつかに胸を痛めることを覚悟して。

「あのご立派なスーツを残して姉さんや音羽家のみなさん、もちろん外商さんたちも帰ったあと、もう一度、試着したの。姉さんたちに申し訳ないっていう気持ちはたしかにあったけど、それでも嬉しかった。大学で就職活動のセミナーを受けたり、企業に資料請求をしながら、どんな職業に就くべきか悩んでたから、素敵なスーツがあるだけで、気持ちは盛り上がるし励みにもなるし」

そこまで話してひと息つくと、陽太もぽつりと呟いた。

「ああ、それはわかるな。俺も、就職活動にって言って親がスーツを作ってくれたし。それを卒業式にも着ろってことで、結構なお値段だった……っていっても七瀬のスーツには負けるけどさ」

ははっと笑う陽太の声にほんの少し、気持ちが明るくなる。

多少上昇した気持ちを頼りに、話を続けた。




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