強引なカレの甘い束縛
事務職の私と稲生さんには、業務の大きな変更はなく、関係のないことなのに。
もしかしたら、総合職を目指している稲生さんに向けて言った言葉なのかな。
きっと、そうだろう。
そう納得して、手元の成績表を見直していると、ドアをノックする音が聞こえた。
そして、そっと開いたドアを見れば、元山君が立っていた。
大原部長に用があるのだろうか、ぺこりと頭を下げたあと、私と稲生さんに気づき戸惑っている。
「あ、ちょっと早めに来たんですけど、出直しましょうか」
「いや、いいんだ。萩尾さんと稲生さんにも関係している話だから、一緒に」
あっさりそう言った大原部長に頷くと、元山君は私の隣りに座った。
大原部長の向かいに三人で並んでいるなんて、面接みたいで居心地が悪い。
落ち着かないのは稲生さんも元山君も同様で、三人で視線を合わせながら首をかしげていると。
大原部長は手元に置いていた茶封筒からカタログのようなものを取り出した。
「元山君の婚約者の女性は、パティシエの学校に行きたいんだったよな」
「え、はい。あの……お酒の席での話を覚えていたんですか……」
「もちろん。元山君との結婚を考えて、ご両親が営んでるスイーツのお店を手伝ってるんだろ?」
「そうです。具体的な結婚の日取りは決めてないんですけど、僕の仕事に変化があれば、そのタイミングで、と思ってます……けど」
元山君は、そこまで話すと、どうして自分の結婚の話題が出るのかわからないようで、不安な瞳を大原部長に向けた。
すると、大原部長は私たちの混乱する気持ちを察したかのように頷き、軽い口調で言葉を続けた。