強引なカレの甘い束縛


「おかあさん、頭が痛いから無理しちゃだめだって……」

くぐもった小さな声が聞こえて、私は姉さんと顔を見合わせた。

「公香?」

「おかあさんはおうちでゆっくりしないといけないんでしょ? おとうさんがそう言ってた」

姉さんはゆっくりと膝をついて公香の顔を覗き込んだ。

「母さんは大丈夫よ? 夕べ病院でたくさん眠ったから元気いっぱい。だからお医者さんがおうちに帰っていいって言ってくれたのよ?」

公香の頭を優しく撫でながら、姉さんは公香に語りかける。

「でも、心配してくれてありがとう。公香は優しくていい子だね」

「うん、唯香のおねえちゃんだもん」

「そうだね……。唯香の素敵なおねえちゃんだし、お母さんの自慢の娘。……そっか。公園で遊びたいのね」

姉さんは公香の頬を優しく撫でながら、「うーん」と考え込んだ。

そして、足に負担をかけないようにゆっくりと立ち上がると、リビングの片隅に置かれているベビーベッドで眠っている唯香の様子を見に行った。

スースーと寝息をたてている唯香にふっと笑みをもらすと、私と公香を振り返った。

「おばあちゃんに来てもらって、今から公園に行っちゃおうか? 陽太君と一緒に食べたアイス、お母さんも食べたいな」

明るい笑顔でそう言った姉さんの言葉に、公香は「ほんと? やったー」と言って両手をあげた。

手にしていた鞄を床に落として姉さんのもとに走り、腰に抱きついた。

「アイス、おいしいんだよ。公香はいつも半分でお腹いっぱいになるから、お母さんはんぶんこしようよ」

姉さんの足元にしがみつき、嬉しそうな公香。

普段、いいお姉さんになろうと我慢ばかりの彼女にとって、唯香がお昼寝をしている今はお母さんをひとり占めできる、幸せな時間なんだろう。

姉さんも公香の頭をぽんぽんと優しく叩きながら、蕩けそうな表情で見つめている。

いつも私に見せる表情なんか比べ物にならないほど、満ち足りた表情だ。

母娘なんだもん、当然だな。

もしも私が姉さんの庇護から離れ、地上に降りたのなら、これまで私に注がれていた姉さんの愛情や気遣いは公香のものになるのかもしれない。

そう思えば、やはりこのままではいられない。

「じゃ、三人でゆっくりと公園に行こうか。陽太にいつ頃来るのか聞いてみるね」

私の言葉に、公香は姉さんにしがみついたまま、こくこくと頷いた。

「じゃ、早く行こうよ。唯香はおばあちゃんがよしよししていてくれるんでしょ?」

姉さんの手を取り玄関へと引っ張っていく公香の足取りは軽く、私は姉さんと顔を見合わせて、くすりと笑った。




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