落日の楽園(エデン)
 だが、そんな厭味にも、春日は人のいい笑みを浮かべて見せた。

「いやいや、結構こう見えて、物忘れ激しくて。

 女王様みたいに完璧にはいきませんよ」

 ……それこそ、厭味だ。

 『女王様』というのは、皆が舞を揶揄するときに使う言葉だ。

 春日はすぐにロッカーを開けて、亮子に教科書を貸してくれた。

「ありがとうっ。汚さないで返すからっ」
「暇つぶしに色くらいなら塗ってくれてもいいよ」

 春日の言葉に、いやだ、もうっと亮子は春日の腕をはたいた。

 けっこう来たらしく、春日は一瞬、痛そうな顔をしていた。

「小学生じゃあるまいし、そんなことしないわ」

 それこそ、厭味だ……と舞は思った。

 実は、舞には教科書のイラストに色を塗るくせがあったのだ。

 子どものようだが、なんとなく、手が空くとやってしまう。

 春日が笑っているのに気づく。

 舞は、ちらりと彼を睨んだ。

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