君を選んだから
ぱっと見、清楚で大人しそうなイメージなのに、彼女が笑うと周りがパァっと明るくなる。

彼女自身が花みたいだな、なんて、働きながらいつも思っていた。


四つ年上だと聞いて、大学で一緒の女の子たちより落ち着いている理由には納得したけど、それを抜きにしても、彼女には人の心を穏やかにして、温かくするようなパワーがあった。

だから、一緒にいるだけで、自分の気持ちが柔らかくなって行く気がした。


入れ替わりながらも常時7〜8人くらいは在籍していたバイトの中で彼女は一番古株だったのに、上から目線になったことは一度もないし、誰かに仕事を教える時も、お客さんに接する時も、常に思いやりを欠かさなかった。

そんな彼女に俺は憧れていたし、カワイイとかキレイとかだけじゃなく、多分、人として尊敬していた。


そして、いつしかその気持ちは膨らんで、「何となくいい」みたいなフワフワした気持ちじゃなく、はっきりと「好き」なんだと確信できるものに変わって行った。

しかしながら、即、告白という訳には行かなかった。


何せ四つも年下だし、当時の俺はまだ大学生の身。

そこそこモテてはいたから多少ビジュアルには自信があったけど、それも所詮、二十歳やそこらの年齢に対してだけのことだ。

他には特に、自分が大人の彼女を堕とせるほどの武器を持ち合わせているようには思えなくて、どう気持ちを伝えたらいいのか、はたまた伝えても気を悪くされないだろうか、悩みに悩みながら毎日を過ごしていた。

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