君を選んだから
「おっ、郁海、帰って来たか?」

「あ、お待たせ。」

「じゃ、早くこっち来いよ。」

「うん。」


今度は緑の生い茂った庭から男の人の声がする。

お兄さんかな?

やっぱりカッコいいんだろうな。


ちょっとワクワクしながら覗き込むと、スラっとした細身のイケメンと目が合った。

そのままニコっと微笑まれて、ドキっとしてしまう。


黒髪の似合うお兄さんは、パッと見、須賀くんとはあんまり似ていない。

優しそうな雰囲気は同じだけど、知らなかったら兄弟だとは思わないかも。


「あおいちゃん、かな?」

「はい。こんにちは。」

「いらっしゃい。」

「ね、兄貴、陽奈さんは?」

「何か、仕事で呼び出されたみたいでさ、遅れて来るって。」

「ふ~ん、そう。」

「だから、もう始めちゃおうぜ。」

「うん。」


あれ? 何となくだけど、今、須賀くんの表情が変わったような。

真顔になって、ちょっと寂しそうな表情になって、それから少しホッとしたみたいにフ~っと息を吐いて。

でも、そのすぐ後に、いつものほんわかした笑顔を見せて.......


「今のが兄貴。」

「あ、うん。」

「あんまり似てないだろ。」

「そうかも。」

「だから、兄貴の奥さんはさ、結構長いこと、俺が弟だって知らないまま一緒に働いてたんだ。」

「へぇ。そうなんだ。」

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