エリートな彼と極上オフィス
機密の書類を引き取ろうとしただけだよ。

部長はさらりとそう言って、私が握りしめていた用紙をすっと取り上げると、にこやかに去ったのだった。



「なんだそりゃ、危機一髪だったね」

「たぶん」

「よく湯田ちゃんの居所がわかったな、山本」



千明さんがビールジョッキ片手に、コウ先輩の肩を叩く。

先輩は、黒ビールのグラスを空になるまであおり、ふーっと息をついた。



「あの会議室、榎並部長の名前で予約されてたんだよ、それをシステムで見つけたんだ」

「どうして榎並部長といるって」

「お前が電話でそう言ってたって、IMC室で聞いたからさ」



同じのを、と店員さんにグラスを渡しつつ、叱るような顔をして、私を指差す。

私はちょっとした隠密行動がこんな形でばれたのが情けなくてうつむいた。



「何してたんだよ、あんな、ふたりで?」

「今回の人事の裏話があると言うので」

「向こうから、わざわざ?」

「いえ…」



私がお願いしました。

小さな声で白状すると、先輩の目つきが険しくなる。



「榎並は危ないって、言ったよな」

「だって…」

「だって、なんだ」



だってはだってだ。

私は久しぶりに見た先輩が、思いがけず元気そうで、変わらなかったことに安心したあまり、ぐずりたい気分になっていた。

二週間も会わなかったことなんて、これまでなかった。

しかもその間、ひとつの連絡もなしなんて。



「あんまり責めるなよ、湯田ちゃんなりに思うところがあったんだろ、お前もどれだけ彼女を心配させたか、考えてみろ」



千明さんにたしなめられ、先輩は不満げにする。

そんな表情も懐かしくて、じんわり泣きそうになった。



「もう落ち着いたんですか」

「まあな」



短く答えた先輩は、ぶっきらぼうすぎたと感じたのか、言葉を継ぐ。

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