エリートな彼と極上オフィス
「姉貴がしばらくあっちに残って、親戚の相手することになったよ、なんせじーちゃんばーちゃんに会ったのも初めてでさ、俺ら」
「そんなことってあるのか、勘当でもされてたってこと?」
「お袋が意地張ってただけっぽい。俺と姉貴って種違いなんだけど、俺のほうの親父がどうも、どっかのお偉いさんらしいんだな」
「結婚に反対して、恨み買ったとか」
「いや、そもそも結婚できる相手じゃなかったんだ、意味わかるだろ? それをいい加減にしろって怒られて、すねてたんだよ」
へえ、と相槌を入れる千明さんは、先輩の家庭が複雑であることは、元から知っていたんだろう。
上着を脱いだコウ先輩は、組んだ脚に片手を置いて、煙草に火をつけた。
「未婚のまま二人の子持ちだぜ、怒るほうが普通だよな」
「話だけ聞いてりゃ、そうだな」
「お袋は元から不安定なとこがあったから、そんな母親で苦労させたねって、ばーちゃんが泣きながら謝ってくれたりして」
「なんだ、いい人たちじゃないか」
「いい人たちだったよ、何かあったら頼れって言ってくれて。でも親戚って感覚、俺、よくわかんないんだよなあ」
困ったように、ぷかりと煙を吐き出す。
そのあっけらかんとした態度が、かえって切ない。
先輩の境遇は、世間一般からしたらかなり変わってると思うんだけど。
本人はたぶん、そこまでとは思っていない。
「いきなり抜けて、負担かけたろ、ごめんな」
「いえ、はい…いえ」
先輩の気持ちを考えたら、どう答えたらいいのかわからなくなった。
なんだその返事、と先輩が笑う。
千明さんも、複雑に微笑んで。
先輩のいなかった間の話なんかをして、疲れているのかお箸の進まない先輩に、あれ食えこれ食えと世話を焼いていた。
「あれ、おい山本」
とりあえず食べるだけ食べたかな、という頃だった。
千明さんが、肩にもたれかかる先輩を揺すり、心配そうな声をあげる。
そういえば少し前から、先輩の声を聞いていない。
寝てしまったのかと思われた先輩は、億劫そうに顔を上げると、絞り出すように言った。