エリートな彼と極上オフィス
「Tシャツの入稿があるから、会の名前を決めないと」
「同舟会ってどうですかね? ライバルたちが一堂に会すってことで」
「呉越同舟か、湯田ちゃん、センスあるねー」
「いやそんな、もう一回言ってみましょうか」
「センスあるねー」
アホかと言わないでほしい。
こうやって大笑いしながら進めないと、目先の仕事に意識が戻ってしまうのだ。
どんなに忙しくても、必要な時間はこの準備に割こうと、最初にふたりで決めたのだ。
これまで業務以外でおつきあいすることのなかった千明さんは、予想以上に話しやすく愉快な人だった。
仲のいい同期なだけあって、コウ先輩の情報もくれる。
若干、私の反応を見て楽しんでいるふしもあるけど。
「中川っていたじゃない」
「まだいらっしゃいますよ、残念ながら」
「あれの目論みが失敗に終わったらしくて、この間ぷりぷりしててね」
私の剣幕を笑いながら、あれ、と千明さんが出入り口のほうを見た。
「あいつ、戻ってきたよ」
「え?」
振り向くと、コウ先輩だった。
私に用らしく、胸ポケットをトントンと指で叩いてみせながらこちらに来る。
「湯田、携帯出ろよ」
「えっ、あ」
背もたれのジャケットに入れっぱなしだった。
チェックすると、先輩からの着信が入っている。
「午後イチの打ち合わせ、室長が戻ってこられなくて1時間後ろ倒し。お前ここから直接会議室行くつもりだったろ」
「わ、ありがとうございます!」
知らなかったら、誰もいない部屋でぽつんとみんなを待つところだった。