エリートな彼と極上オフィス
ぼんやりとコーヒーの抽出を待つ間も、終わりそうで会話は終わらない。

ちょこちょこ“航”という親しげな呼び名を登場させるのに、絶対わざとだ、と内心で毒づいてみる。


時間的に、先輩はこちらの空港に着いてすぐの頃だ。

電話ありがとってことは、先輩のほうからかけたのか。

まさか“ただいま”の連絡、てことはない、と思いたい。


そもそもこのふたりは特別に仲がいいのか、それとも先輩は誰にでもあんな感じなのか。

他にもこんなふうに先輩を狙う女の人は存在するのか、するとしたらどこの誰なのか。


一番近くにいると自負しておきながら、私は案外、コウ先輩のことを知らない。



「お待たせいたしました」

「あ、どうも」



夏の名残でつい頼んだアイスコーヒーはひやりと冷たく、早くも持て余しそうに感じられた。

先輩はここでドリンクを買うと、必ず隣のベーカリーコーナーからお土産を見つくろって、私に持って帰ってきてくれる。

ころんとしたミニクロワッサンを横目に見ながら、もしかしてそんなのも、私にだけってわけじゃなかった可能性に、今頃思い当たった。





「湯田さん、カスタマー企画部から。繋いでいい?」

「はい」

「コミュニケーションサイトみたいの企画してるんだってさ、こっちの動きとばらばらだとまずいからって」



おお、わざわざ確認してきてくれたのか、ありがたい。



「お電話替わりました、湯田と申します」



電話の向こうの人は、あら、と小さく驚きの声をあげ。



『中川です』



簡潔に名乗った。

なんとも形容しがたい一瞬の沈黙の後、向こうが企画の話を始める。

私もよりによって彼女と回線で繋がってしまった衝撃から自分を立ち直らせ、耳を澄ました。



『という内容なんですが、こういうのってやっぱり、IMCさんの許可が必要なのかなと』

「当方、承認部署ではないので、あくまで決定権は企画部署にあるのですが、ちなみに販促部で近い企画があるのをご存じですか」

『えっ、そうなの』


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